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東京地方裁判所 昭和46年(行ク)53号 決定 1971年11月20日

申立人 佐藤戦争内閣を倒し米軍にインドシナからの即時撤退を求める七一年一〇月市民行動

右代表者 福富節男

右代理人弁護士 菅野泰

大川宏

被申立人 東京都公安委員会

右代表者委員長 阿部賢一

右代理人弁護士 沢田竹治郎

山下卯吉

竹谷勇四郎

武藤正敏

高橋勝徳

福田恒二

金井正人

右指定代理人 宮脇磊介

<ほか五名>

主文

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

本件申立ての趣旨および理由は、別紙一記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は、別紙二記載のとおりである。

よって判断するに、疎明を総合すると、次の各事実が認められる。

(一)  申立人が許可申請者となって本件集団示威運動を行なおうとしている昭和四六年一一月一九日には、合計六一件(いずれも申請どおりの進路によることが許可されている。)に及ぶ集団示威運動が都内において行なわれることとなっており、しかも、一一・一九全国統一行動中央大集会実行委員会が一二万五、〇〇〇名の参加予定のもとに行なおうとしている集会・デモをはじめ、そのほとんどが、沖繩返還協定の批准反対をスローガンに掲げ、国会への請願ないし抗議の意思表示をなさんとして国会を中心に都心部において行なわれるもので、現下の政治情勢から見て、かなり過熱した行動に出ることが予測される。

(二)  全国県反戦、東京入管闘、関東叛軍等が主催して日比谷公園において行なおうとしている協定批准実力阻止総決起大会およびその後同所から虎ノ門・西新橋を経て常盤公園に至るデモ行進については、前者のみ許可され、後者は不許可となっている。しかし、一般に中核系とよばれるこれら主催団体が動員を予定している者(予定人数七、〇〇〇名)については、当日の行動によって首都暴動・国会爆砕を呼号しているこれらの団体の宣伝活動や最近の一一月一四日における渋谷地区その他の違法行為に徴しても、不許可にかかわらず予定したデモを強行し、あるいはいくつかの小集団となって霞が関、国会周辺一帯や銀座方面にゲリラ的に出没し、火焔瓶や手製爆弾の投擲を伴う人命をも危うくするような過激行動に出ることを充分に予想される事態にあり、そしてその行動が他の団体による集団行動や一般大衆を捲き込み利用する形で行なわれるため、警備が著しく困難になると思われる。

(三)  本件申立人が許可を申請した集団示威運動の主体となるものは、いわゆる「べ平連」運動を共通の目的として組織された多数の団体(以下単に「べ平連」と呼ぶ。)であるが、べ平連の主催下に過去に行なわれた本件と同種の集団示威運動においては、ややもすれば、平穏な示威運動の範囲を逸脱し、しばしばジグザグデモ、路上座り込みによる交通渋滞を来たしたばかりでなく、路上にバリケードを築いてこれに放火したり、警備の警察官や交番に向けて火焔瓶や石を投げつける等の違法な過激行動が、示威運動自体の中で、あるいはこれに接着して行なわれた例が二・三にとどまらない。べ平連自体は市民的平和運動を標榜しているけれども、右のような過去の経歴(この中には、前記(二)に掲げた諸団体と集団示威運動を共同主催した例も幾度かある。)は、前記のような過激行動に走る要素が同団体自体に内在しているか、少なくともかかる過激行動分子の行動参加の排斥に意を用いようとしない同団体の性質を推認させるものといっても過言ではなく、かかる過激分子の跳梁に対する同団体の放任的態度は、申立人側の疎明によってすら、うかがえるところである。

以上のような事実関係を総合すると、申立人の許可申請にかかる本件集団示威運動の経路をそのまま認めようとする場合には、この運動が過激な違法行為を誘発し、またはこれに影響されあるいは利用されるおそれが少なくない。とくに、国会の近接地域においては、同日の集団行動の多くが国会を目的とするものであること、また、四万五〇〇〇人もの多人数による請願のための集団と時間的に重なりあい、一方国会爆砕を叫ぶ前記(二)の集団によるゲリラ的行動も予想されうること等にかんがみ、さらに西新橋から外堀通を経て国労会館に至る経路については、べ平連自体の同じコースにおけるデモでも過去に数度におよび違法事態を招来しているのみならず、前記(二)の集団による示威運動も、接近した時間に予定されていたので、被申立人の不許可にもかかわらず、このコースないしコース中の交通の輻湊する地点においてこれら集団による違法な行動が行なわれることも充分に予想されることに徴し、いずれも公共の秩序を保持するためやむをえない措置として、被申立人のしたような進路の変更を条件として付されてもやむをえない事情にあるものというに難くなく、この進路変更の条件を付した処分の執行を停止するときは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるものといわざるをえない。

よって、本件執行停止の申立ては、行訴法二五条三項により却下を免かれず、申立費用の負担につき同法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横山長 裁判官 南新吾 竹田穣)

<以下省略>

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